left HOPE.

 たった一言知らせて呉れ! "Nevermore"

――太宰治「葉」より

「言いすぎかも知れないけれど、君の言葉はひどくしどろもどろの感じです。どうかしたのですか? ――なんだか、君たちは芸術家の伝記だけを知っていて、芸術家の仕事をまるっきり知っていないような気がします」
「それは非難ですか? それともあなたの研究発表ですか? 答案だろうか。僕に採点しろというのですか?」
「――中傷さ」
「それじゃ言うが、そのしどろもどろは僕の特質だ。たぐい稀な特質だ」
「しどろもどろの看板」
「懐疑説の破綻と来るね。ああ、よして呉れ。僕は掛相い万歳は好きでない」
「君は自分の手塩にかけた作品を市場にさらしたあとの突き刺されるような悲しみを知らないようだ。お稲荷さまを拝んでしまったあとの空虚を知らない。君たちは、たったいま、一の鳥居をくぐっただけだ」

――太宰治「ダス・ゲマイネ」より

 「left HOPE.」は長らくのご愛顧を頂きましたが、この人斬り無謀庵こと宮月純志郎、色々思うところあり、さすがにもう今後SSを書くことはないだろうと確信するに到り、とりあえずの区切りとして、更新終了をここに宣言いたします。

「しかし、お前の、女道楽もこのへんでよすんだね。これ以上は、世間が、ゆるさないからな」
 世間とは、いったい、何の事でしょう。人間の複数でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう。けれども、何しろ、強く、きびしく、こわいもの、とばかり思ってこれまで生きて来たのですが、しかし、堀木にそう言われて、ふと、
「世間というのは、君じゃないか」
 という言葉が、舌の先まで出かかって、堀木を怒らせるのがイヤで、ひっこめました。
(それは世間が、ゆるさない)
(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)
(そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ)
(世間じゃない。あなたでしょう?)
(いまに世間から葬られる)
(世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう?)
 汝は、汝個人のおそろしさ、怪奇、悪辣、古狸性、妖婆性を知れ! などと、さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、自分は、ただ顔の汗をハンケチで拭いて、
「冷汗、冷汗」
 と言って笑っただけでした。
 けれども、その時以来、自分は、(世間とは個人じゃないか)という、思想めいたものを持つようになったのです。

――太宰治「人間失格」より

 旧作品は、気が向き次第、私の気に入っているものから順に再公開します。
 これを上げろという要望があらば、なんとかして私に連絡をつけ、伏して願うように。

 これで物語が、すんだのであるが、すんだ、とたんに、また、かれらは、一層すごく、退屈した。ひとつの、ささやかな興奮のあとに来る、倦怠、荒涼、やりきれない思いである。兄妹五人、一ことでも、ものを言い出せば、すぐに殴り合いでもはじまりそうな、険悪な気まずさに、閉口し切った。
 母は、ひとり離れて坐って、兄妹五人の、それぞれの性格のあらわれている語りかたを、始終にこにこ微笑んで、たのしみ、うっとりしていたのであるが、このとき、そっと立って障子をあけ、はっと顔色かえて、
「おや。家の門のところに、フロック着たへんなおじいさん立っています。」
 兄妹五人、ぎょっとして立ち上った。
 母は、ひとり笑い崩れた。

――太宰治「愛と美について」より

 せっかくのxreaのスペースなので、ただあそばせておくのももったいない――ただの旧作ライブラリだったらGeocitiesで十分――ので、いろいろやることにしました。
 飽きるまで続けます。飽きたら自然と放置されることでしょう。

sfrenatezze.com gateway

 私の数ある悪徳の中で、最も顕著の悪徳は、怠惰である。これは、もう、疑いをいれない。よほどのものである。こと、怠惰に関してだけは、私は、ほんものである。まさか、それを自慢しているわけではない。ほとほと、自分でも呆れている。私の、これは、最大欠陥である。たしかに、恥ずべき、欠陥である。
 怠惰ほど、いろいろ言い抜けのできる悪徳も、少い。臥竜。おれは、考えることをしている。ひるあんどん。面壁九年。さらに想を練り、案を構え。雌伏。賢者のまさに動かんとするや、必ず愚色あり。熟慮。潔癖。凝り性。おれの苦しさ、わからんかね。仙脱。無慾。世が世なら、なあ。沈黙は金。塵事うるさく。隅の親石。機未だ熟さず。出る杭うたれる。寝ていて転ぶうれいなし。無縫天衣。桃李言わざれども。絶望。豚に真珠。一朝、事あらば。ことあげせぬ国。ばかばかしくって。大器晩成。自矜、自愛。のこりものには、福が来る。なんぞ彼等の思い無げなる。死後の名声。つまり、高級なんだね。千両役者だからね。晴耕雨読。三度固辞して動かず。鴎は、あれは唖の鳥です。天を相手にせよ。ジッドは、お金持なんだろう?
 すべて、のらくら者の言い抜けである。私は、実際、恥かしい。苦しさも、へったくれもない。なぜ、書かないのか。実は、少しからだの工合いおかしいのでして、などと、せっぱつまって、伏目がちに、あわれっぽく告白したりなどするのだが、一日にバット五十本以上も吸い尽くして、酒、のむとなると一升くらい平気でやって、そのあとお茶漬を、三杯もかきこんで、そんな病人あるものか。

――太宰治「懶惰の歌留多」より

旧作インデックス

「利いたふうな口をきくな〜〜!!」
ゴォワッ

――原哲夫「花の慶次 ―雲の彼方に―」より