焼き芋屋台。
女人を引きつけてやまないその呼び声。
い〜しやぁ〜きいもぉ〜ぅ。
わたしはさりげなくその後をつけていきます。
屋台が立ち止まれば素早く身を隠し、屋台が動き出せば歩き出す。
焼き芋のその美味、食感、暖かさ。焼き芋を、「日本一女の子に好かれるモノ」の一つたらしめているこれらの要素は、わたしだって無論嫌いじゃありません。
嫌いじゃありません。
……。
でも、それを味わう幸せは、わたしには遠い幸せ。
焼き芋の主購買層――
それは、主婦。おばちゃん。
オフィス街に出ている屋台ならOLが取って代わるでしょうけど、ここは住宅地。
今小走りにやってきたお客さんを、電柱の影から見ていても――
「すいません、4つお願いします」
「はいよっ!」
20歳ぐらいでしょうか。
一応オバサン主婦ではありませんでした。
しかし、どうも年齢より少し老け込んだ雰囲気があります。多分20歳ぐらいという実年齢は、わたしの肌年齢を見抜く目に曇りがなければ、誤りはないはずです。でも、おそらく20歳の若者が見れば年上のような印象を受けるだろう、という雰囲気が。
「毎度っ!」
「ありがとうございます」
4つ入りの紙袋を受け取る。
うらやま――いえ……。
この女性のような、糠味噌臭さというか……よく言えば家庭的な雰囲気の持ち主には、若くても焼き芋が似合います。
その点、わたしなんか――。
悲運、薄幸の美少女。
無口、儚げな美少女。
日本人形のような清楚な美しさ。
そのうち髪が伸びてきそうな雰囲気が――いえ。
とにかく、焼き芋は決定的に似合いません。
焼き芋が似合わないであろうことは、わたしが美少女であるということ以上か同じくらい、自信をもって断言できます。
「あ、もう買っちゃったの?」
「うん、4つあるからみんなで食べようね」
童顔の、ぼーっとした感じの男の人が早足にやってきました。お友達、でしょう。まさかこんなのが彼氏なわけが。
どうも口振りからすると、彼女が彼を振りきって焼き芋屋に走っていって、それに遅れて追いついてきた、ということのようです。
「4つ……?」
「うん、私と七瀬君と、藤井君とはるかちゃん」
「でも、冬弥なら今日テレビ局だから来れないよ。さっき話してたじゃない」
「えっ?」
「はるかだって、今日はどっか飛んでっちゃって捕まらなかったし。これもさっき話したよ」
「えっ、ど、どうしよう」
「僕は2つぐらいは食べられなくもないけど、3つは……」
「だ、大丈夫よ、私が責任取って、3つ食べるから……」
……。
計画的な臭いがします。
「3つは大変でしょ?」
「ううん、今日と、持って帰って明日も食べれるから大丈夫」
……。
きっとこの女性は、自分が3つもイモをばくばく食べる女だ、ということを知られないように、さりげなくこんな手を使ったに違いありません。
いくら似合うといっても、3個はないでしょう、3個は。
……1個買うことすら躊躇しているわたしの前で……。
「と、とにかく、冷めちゃわないうちに、行きましょ?」
「あ、うん、そうだね」
行ってしまいました。
そんなに早く食べたいんですか。
はぁ……。
「はぁ……」
ふと、近くからため息が聞こえて振り向くと、詠美さんがいらっしゃいました。
「焼き芋なんてー……。クイーンの食べ物じゃなーいもーん……」
そんなことを言いながらとぼとぼと歩いてきて、隠れているわたしに気づく様子もなく、そのままとぼとぼと歩いていきました。
……。
あなたはギャグキャラですから、あのドシリアスな本編シナリオは忘れて、遠慮なく召し上がればよろしいと思いますけど。
はしたなく5個も6個も頬張る姿を想像しても、わたしには特に違和感は感じませんし。
はぁ……。
もしこの世界が、「焼き芋というものは、美しく、か弱く、陰のある美少女にこそ似合う食べ物である」という世界だったら……。
『その願い、叶えてあげましょう』
「……はい?」
突然聞こえてきた二重括弧の台詞に、思わず振り向きました。
「……南さん?」
『私はこの世界の創造主です』
「…………南さん……?」
『違います。とにかく、「焼き芋というものは、美しく、か弱く、陰のある美少女にこそ似合う食べ物」という世界をお望みなんですね?』
「はぁ……まあ……」
『よろしいですよ。その願い、聞き届けてあげます。こみパに栄光あれっ!』
瞬間、世界がまばゆく輝いて――。
目を開けると、そのままでした。
屋台はやはり同じ場所で呼び込みの声を上げていて、特に違いはないようでした。
南さんは居なくなっています。
「……?」
白日夢でしょうか。
よくあることです。気にしないでおきましょう。
あ、また女の子がやってきました。お客さんでしょうか……。
「おひとつ、いただけますか?」
「あ、柏木楓ちゃんだね。楓ちゃんだったら文句なしだよ」
……文句なし?
「文句なしだなんて……そんな……」
「いやいや。楓ちゃんほど『焼き芋者』の条件に叶った子はなかなかいないよ。美しくか弱く陰がある、楓ちゃんをずばり直喩したような言葉じゃないの」
「恥ずかしいです……」
「そうやって恥じらうところがまたいいね。はい、焼き芋ひとつ。またきてね」
「……ありがとうございます……」
……。
楓さんは、焼き芋を受け取って帰っていきました。
これは……。今の会話は……。
これなら、このわたしが、こんなにこそこそすることなく――むしろ、堂々と買いに行くことが……。
南さん、本当にありがとうございます、と心で唱えながら、足はもう屋台に向かって歩き始めていました。
「焼き芋……おひとつ、いただけますか……?」
長い間言いたくても言えなかったこの台詞が。
喜びと共に、口に上る……。
「あー、えーっと、あなたは……長谷部彩さん?」
「……はい……」
そう。
こみパでもっとも美しく、か弱く、陰がある、ついでに人気もある、長谷部彩です。
ぱたん。
「……あなた、どっちかっていうとギャグキャラだから。ごめんね」
芋屋は屋台のふたを閉じ、
い〜しやぁ〜きいもぉ〜ぅ
と、ドップラー効果を残して走り去って行きました。
11月の冷たい風が、顔を撫でていきました。
すると、冷えた肌を暖めようとするように、熱い涙が溢れてきました。
これから、わたしをギャグキャラにした「流れ同人作家旅情編(3)」の作者・企画者、そして数多のSS作家を、ひとりひとり――